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39 白山禅定道

美濃禅定道

独立峰であり、一年の半分を雪に覆われる白山は、常にその姿を平野からも海からも人々にその姿を仰ぎ見られてきました。
人々に畏敬の念を抱かせ、白山信仰が生まれました。
美濃禅定道はいとしろ登山口(古は白山中宮長滝寺)から白山 御前峰の山頂2702mへと向けた、距離約19km、累積標高約2700mの登拝・修験のルートです。

古道を歩く

美濃禅定道へは、白山中居神社からの林道を6kmほど経て石徹白登山口から始まります。
登山道までの車場はよく整備されており、車でのアクセスが可能です。
ただし、残雪期は車で林道への侵入ができないため、中居神社より歩いてのアプローチとなります。

修験の道である美濃禅定道は、歴史探索だけでなく、縦走時の景観も素晴らしいです。
緑の笹の中を北上する尾根道に沿って続く、左右に遮るものがない美しい稜線は、すべての人を魅了するでしょう。。
東には遠く御嶽山・乗鞍岳・北アルプスを望み、西には山深い願教寺・野伏ヶ岳・荒島岳をはじめとする両白山地の山々を楽しみながらの白山までの縦走路は、抗えない魅力があります。
花が咲き乱れ、鳥の鳴き声が清々しい登山道は長丁場の疲れを忘れさせてくれます。

登山口から20分ほど石段を登ると、国の特別天然記念物「いとしろ大杉」に到着します。
樹齢1800年と言われる「いとしろ大杉」は、その荘厳さで見る者を圧倒し、美濃禅定道への神秘的な思いを抱かせます。登山者にとって、歴史と信仰の交差点を渡る瞬間となるでしょう。

「いとしろ大杉」から神鳩ノ宮避難小屋までは緩急交えた登山道が続きます。
急登のおたけり坂は足に堪えますが、ここは泰澄大師とその母親との伝説に彩られた場所です。
一つ一つの物語を思い返しながら登るのも良いでしょう。

神鳩ノ宮避難小屋はよく整備されています。
初日が昼過ぎの遅いスタートであれば、ここで宿泊するのも良いでしょう。水場はありますが、トイレはありませんのでご注意ください。
神鳩ノ宮から5分のところには小さな祠があり、ここは大日ヶ岳・芦倉・丸山を経た修験の登山道との合流点となっています。まさに歴史の交差点と言えるでしょう。
気持ちのよいブナの林をしばらく進むと笹原の道になり、特徴的な母御石が目に入ってきます。

この石にも泰澄大師への母御の想いの伝説が語り継がれています。母子の想いにしばらく感慨を巡らせながら歩くと、銚子ヶ峰の山頂に到達します。360度の大展望と別山を眺めながらしばし休息するのがおすすめです。
銚子ヶ峰からは、左手に野伏ヶ岳から願教寺山に連なる山々が原始の自然を残した美しい風景が広がります。
一ノ峰、二ノ峰を経て三ノ峰避難小屋に至ります。

三ノ峰避難小屋の手前は6月末まで雪が残るため、登山道の状況を確認し装備の準備をするのがおすすめです。
三ノ峰避難小屋もよく整備されています。
次の宿泊適地は南竜ヶ馬場になるので、体力と相談してここで宿泊するのも良いでしょう。時間と心のゆとりは、自由な計画変更を可能にし、これこそが山歩きの醍醐味です。
水の確保が困難なので準備は必要です。
小屋の20分ほど手前にある水呑釈迦堂の水場は枯れることもあるので事前に確認をしておきましょう。

三ノ峰避難小屋から10分で三ノ峰の山頂です。ここまで来ると別山の存在感が大きくなり圧倒されます。

三ノ峰からは福井県からの登山客が多くなり、賑やかで楽しい山行となることでしょう。
三ノ峰から別山へは、100mほど大きく下ってからの登り返しとなります。
途中の別山平は御手洗池を有する台地上の草原で、夏であればお花畑が目を楽しませてくれます。
池の畔には別山室跡が明確に見て取れ、登拝の道であることを再認識させてくれます。

別山平を過ぎ、200mほど登ると別山山頂に到着します。
ここまででも約10kmの長丁場ですが、白山三山の一座に到達したという感慨に包まれ、疲労も忘れるでしょう。
たおやかな白山と大汝峰の姿を目に焼き付け、次の行程への鋭気を養います。
別山からは白山を目標に歩き始めることになります。

白山本峰を仰ぎながら、一歩ずつ稜線を刻む天空の登山道です。
大屏風や古の宿坊である六兵衛室跡や天池が歴史の趣を駆り立てます。
他に類を見ない稜線の美しさに、きっと感動することでしょう。

油坂の頭に到達すると、南竜ヶ馬場への下りとなります。
ここは遅い時期まで雪が残るので、事前に登山道の状況を確認したほうがよいところです。
石徹白登山口から南竜ヶ馬場までは距離がありますが、初日に踏破するのがおすすめです。
南竜山荘もテントサイトも、美しく開放感があり、疲れた体を休めるのに最適です。
「仙人が龍馬を調教した」との由来がある南竜ヶ馬場で一日の行程を振り返るひとときは、至福の時間となるでしょう。
ここから白山ピークを目指します。
トンビ岩コースは最古の道と言われ、石徹白道とも呼ばれていますが、好みに合わせてルートを選んでください。

エコーラインは展望が良く、弥陀ヶ原を楽しみながら登ることができます。
展望歩道は少し遠回りになりますが、北アルプスの眺望を楽しめます。
どのルートを選んでも、時間違わず室堂に到達することができます。
現在も数多くの人が訪れる室堂の壮大さと奥宮の荘厳さは、古からの白山登拝の重厚さを物語っています。
夏には、室堂周辺が可憐な花で一面覆われます。

奥宮の鳥居をくぐり山頂への急登を40分ほど登ると、御前峰の山頂に到着します。
たおやかな白山、御前峰の山頂からは、たくましい別山、大汝峰、剣ヶ峰の山容が楽しめます。

天気がよければ、御嶽山・乗鞍岳・北アルプスの姿を、北には日本海を遠望できます。御前峰で余力があれば、お池巡りや大汝峰をぜひ楽しんでほしいと思います。

美濃禅定道は、尾根の縦走と景観を楽しむのに最適なルートです。
しかし、帰路の計画は慎重に立ててください。石徹白に戻るには来た道を戻るしか方法がなく、市ノ瀬や平瀬に下山しても公共交通機関はありません。そのため、仲間によるピックアップなどを手配して計画を立てることをおすすめします。

この古道を歩くにあたって

登山道はよく整備されています。銚子ヶ峰から三ノ峰までは人通りが少ないですが、その他は数多くの登山者で賑わっており、孤独を感じることはないでしょう。

体力: 初日に南竜ヶ馬場に到着するのが理想ですが、健脚者向けです。体力に合わせて、神鳩ノ宮や三ノ峰避難小屋での宿泊も検討してください。後述する水の確保は、綿密に計画してください。

水: 尾根上を進むため、水の入手が困難です。水呑釈迦堂は枯れることもあるので、当てにしない方が良いでしょう。南竜ヶ馬場まで行けば水は豊富にあり、心配ありません。

残雪: このエリアは豪雪地帯のため、雪解けが遅く、6月末でも雪が残っている可能性があります。特に、①三ノ峰避難小屋の手前、②三ノ峰から別山の下り、③油坂の頭から南竜ヶ馬場の下りには注意が必要です。③は斜度が急で谷筋に落ち込むような斜面なので、雪の情報は南竜山荘などに問い合わせて確認してください。

帰路の確保: 白山登山後の帰りの交通手段を事前に計画してください。単独の場合は、石徹白にピストンで戻るしかありません。体力に応じて、平瀬や市ノ瀬に下山するのも良いですが、そこから石徹白へ戻るのは非常に困難です。仲間によるピックアップなどを手配することをおすすめします。

古道を知る

「越のしらやま」として古くより詩歌にも読まれてきた白山は、泰澄大師により養老元年(717年)に開山されたと伝えられています。美濃・加賀・越前に拠点(馬場)が設けられ、3方からの登拝道が開かれたのが天長9年(832年)です。
12世紀に記された「白山之記」によれば、白山山頂は神や仏の住む聖なる世界とされ「禅定」とよばれており、その頂上へ至る修行の道を禅定道とよんでいたとのことです。
ここで紹介する美濃禅定道の古の起点は、岐阜県郡上市白鳥町の「白山中宮長滝寺」(明治の神仏分離後は「長滝白山神社・白山長瀧寺」)であり、泰澄大師が創建したと言われています。
平安時代の末には登拝が始まったといわれています。美濃禅定道の平安時代から鎌倉時代の白山登拝最盛期には「上り千人、下り千人、宿に千人」と言われるほどの繁栄ぶりでした。
現在の美濃禅定道の起点になる石徹白は、白山信仰に大きな役割を担ってきたと言われており、「御師」による護符の配布活動が現在の3000社余りある白山神社の隆盛につながったと言われています。
白山は源義経や奥州藤原氏の伝説とも深く関わっており、興味深い歴史があります。石徹白は京を追われた義経が東北へ逃避行の際、冬開けを待って石徹白を経て平泉へと逃げ延びたという伝説があります。また奥州藤原三代秀衡は篤く白山を信仰し、石徹白に銅造虚空蔵菩薩坐像を寄進したことはよく知られており、伝説に彩られた歴史が美濃禅定道への興味を盛り上げます。
明治5年(1872年) 太政官布告により女人禁制が解かれるまでは女性は白山に足を踏み入れることができませんでした。現在では、花の名山として、そのたおやかな山容が多くの女性をはじめ、老若男女を魅了しています。

深掘りスポット

おたけり坂・雨宿りの岩屋・母御石

石徹白杉から銚子ヶ峰に至る登山道には、泰澄大師と母御にまつわる物語や伝説が多く語り継がれています。中でも、女人禁制だった白山に登ろうとした母御の物語が中心です。母御が「神の怒りに触れて苦難を受けた」とされるおたけり坂、「槍と血の雨を避けた」と言われる雨宿りの岩屋、「白山への登頂を阻まれた母御が、なおも岩を乗り越えようとしたため、大師がやむなく石を割って閉じ込めたという伝説があり、現在も大きな割れ目を見ることができる」母御石など、興味深い見どころが続きます。これらの伝説は、たとえ大師の母であっても、女性は神域に入ることは許されなかったということを示しています。

福井県最高点

三ノ峰山頂(2128m)は福井県境からわずかに外れているため、福井県の最高峰ではありません。福井県の最高峰は同じ両白山地の経ヶ岳(1625m)です。しかし、山頂ではありませんが、福井県の最高地点は三ノ峰避難小屋の裏の笹原にある2095m地点です。ここには標識があるので、時間があれば探してみてください。

ルート

1日目: 合計18.5km 時間 9時間20分
石徹白登山口
↓ 120分
神鳩ノ宮避難小屋
↓ 60分
銚子ヶ峰
↓ 150分
三ノ峰
↓ 110分
別山
↓ 80分
油坂の頭
↓ 40分
南竜ヶ馬場

2日目: 合計10.5km 時間 5時間50分
南竜ヶ馬場
↓ 80分
トンビ岩
↓ 20分
白山室堂
↓ 40分
御前峰【ここからはモデルケース】
↓ 60分
お池巡りから白山室堂
↓ 70分
甚之助避難小屋
↓ 50分
中飯場
↓ 30分
別当出合

アクセス

石徹白の白山中居神社から、美濃禅定道登山口への林道を約6km進む。道はよく整備されている。登山道周辺には十分な駐車スペースがある。公共交通機関はない。

協力・担当者

《担当》
日本山岳会岐阜支部
東明 裕

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