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16 栗駒古道
宮城県栗原市から栗駒山麓を越えて秋田仙北地方に通じる道は、1051年前九年の役の安倍貞任の鬼切部(鬼首)の戦の時に、仙北道栗駒越えとして初見します。
江戸時代になると、伊達藩は仙北道を「上羽路」と呼び、栗駒山中に一里塚と6箇所のお助け小屋を完備し、旅人に安心な街道にしたので、奥羽山脈越え街道中一番の交通量を誇りました。
また、上羽路の県境付近から分岐して花山まで、藩境警備を目的に「寒湯番所」を新設しました。
明治期には「羽後岐街道」として、県道の認定を受けましたが、荷馬車が通れる和賀越え道の拡幅後、交通量が激減し、昭和になって時代ごとの道路名を総称して、「栗駒古道」と称しました。
栗駒古道は馬の通行をしなかったので、街道の移動がなく、一千年の古道史とブナ原生林、石塔塚・一里塚・お助け小屋跡等を楽しむことができます。
湯浜温泉→湯浜コース分岐→千年クロベ→大地森分岐→世界谷地駐車場(約6時間)
登山道の基点は湯浜温泉の入り口、国道398号脇にある駐車場です。20台以上駐車できますが、登山客で満車ということは滅多にありません。裏を返せば、それだけ登山者が少なく、静かな山歩きを楽しめます。
歩き始めてすぐ出会う、母沢(一迫川支流)の美しい渓流、迫力のある湯浜の上滝、ランプの宿として有名な「湯浜温泉三浦旅館」の露天風呂などに心が弾みます。
登山道は全体的に勾配が緩く、整備が行き届いています。迷いやすい箇所や危険な箇所はほとんどありませんが、距離が長いことから、ある程度の体力が必要で中級者向けです。沢水以外に水場はありませんので、十分な飲料と食料、そして天候の急変に対応できる装備を持ちたいものです。
途中、役行者堂、白檜沢の手前に山の神の石塔、行者堂跡があります。
湯浜温泉から湯浜コース分岐までは所要時間約70分です。
湯浜コース分岐から間もなく、相ノ沢という二つ目の沢を渡渉します。一帯は見事なブナ林で、緩やかに高度を上げていきます。
八沢という小さい八つの小沢があるエリアを越え、三つ目の小桧沢という大きな沢を渡渉すると、千年クロベ入口という標識があり、千年クロベに向かう分岐道があります。
途中には一里塚があります。分岐道の先にあるコンクリートで作られた木桧沢2号橋を渡ると、平坦な林道が続きます。
途中、放置された軽トラックが道の脇に見えます。この軽トラックは、2008年(平成20年)岩手・宮城内陸地震当時、この場で作業をしていた方が残したものです。
千年クロベの周辺には、500年クラスのクロベが数本あります。赤テープの付いた箇所を左折して奥に入ると千年クロベが見えてきます。
湯浜コース分岐から千年クロベまでは所要時間約80分です。
千年クロベから千年クロベ入口の標識まで戻ります。
次のポイント地点は、大地森(標高1154.8m)へ向かう分岐点になります。
途中、まさかり山神の小さな祠があり、そのすぐ先に大地沢という大きな沢があります。水の勢いと沢幅が大きく、ロープが張ってありますが、水量が多いところに張ってありますので、ロープは使わない方がよいでしょう。
そして、大地森分岐点へ。
ここには、江戸時代に「お助け小屋」と呼ばれる、今で言う長屋作りの宿泊地があったところになります。現在は登山者の休憩場所として、テーブルと椅子が備え付けてあり、当時を偲ぶ石碑(役行者元座)があります。
他に、鳥居跡、一里塚、お助け小屋、杉の古木があります。
昭和初期までは表掛登山道(江戸時代から続いた栗駒山登拝道)の分岐点でしたが、現在は廃道になっています。
千年クロベから大地森分岐までは所要時間約80分です。
大地森分岐から世界谷地駐車場までの登山道は、なだらかで整備されて歩きやすいです。ブナの大木が直射日光を遮ってくれます。
途中、ブナの広場と称されている場所の一角に「の座石」という大きな石があります。詳細は不明ですが、昔は旅の行者が登拝の途中で休んだ場かと思われます。
その先に歩を進めると、世界谷地第2湿原分岐が見えてきます。
世界谷地第2湿原は乾燥化が進み、低潅木が生い茂っています。
その先、700m、約10分歩くと、世界谷地第1湿原が見えてきます。
この一帯は、世界谷地湿原(世界谷地原生花園)と呼ばれていますが、世界谷地とは広い湿原という意味で、世界谷地湿原は、上・中・下の3段に分かれて広がる4つのグループ、大小8つの湿原からなり、その間を幅50mものブナの原生林が横断しています。
この湿原は、深さ1.3mの泥炭層の上をミズゴケ類の厚い層が覆っていて、その表面に高山植物が群生しています。
5月のミズバショウから9月のエゾオヤマリンドウまで、数多くの花々が咲き、特に6月下旬に咲くニッコウキスゲの大群生は全国的に有名です。湿原がオレンジ色の花に覆われ、美しい風景が見られます。
世界谷地第1湿原から約10分で世界谷地駐車場に着きます。
世界谷地第2湿原と第1湿原の間には、栗駒古道に複数あったお助け小屋の一つで、秋田日記(江戸期)の著者、熊谷新右衛門も宿泊した秣森(まぐさもり)お助け小屋跡があります。跡地には一本杉が聳えています。
世界谷地駐車場は50台が駐車でき、トイレも完備されています。
大地森分岐から世界谷地駐車場までは所要時間約50分です。
湯浜温泉から千年クロベ入口の標識までは、多少のアップダウンを数回繰り返しながら小さな沢をその都度渡るため、沢が増水している場合、渡渉が困難・不可の場合がある。ロングトレイル。
奥州から奥羽山脈を越えて、羽州仙北地方に通じる道は、鬼切部越えの官道の外、栗駒越え(栗原)・手倉越え(担沢)・和賀越え(北上)・雫石越え(盛岡)の4ルートが、前九年の役の頃には開削されていました。(鬼切部の戦い 栗駒越え)
江戸時代になると「栗駒越え仙北道」は「上羽路」と呼ばれ、一里塚とお助け小屋を完備し、文字村と沼倉村に番所を設置しました。安全と便利さにより、山越え街道中一番の交通量を誇っていました。
戊辰戦争の時、伊達郡が行軍した道。
その後、藩境警備のため、上羽路の藩境付近から花山村へ通じる「下羽路」を開削、寒湯番所を置きました。
明治に入ると、沼倉村、文字村、花山村の県道誘致運動があり、その結果3村を通る「上羽路と下羽路」が県道「羽後岐街道」として認定を受けました。しかし、和賀越え道が拡幅し、荷馬車が通るようになってからは羽後岐街道の交通量が激減しました。
岩ヶ崎から旧上羽路が県道「稲庭線」として認定を受けるも、幻の県道となりました。
これら時代ごとの道路名を総称して「栗駒古道」と称しています。
巨木の森入口にある分岐を南に進むと、「千年クロベ」と呼ばれるクロベ(ヒノキ科、地方名:ネズコ)の巨木があります。この巨木は樹高21.5m、幹周り10m、推定樹齢千年(全国巨樹・巨木の会調べ)、落雷によるひび割れや焦げ付いた跡があるなど、名前の由来どおり千年の風雪に耐えているだけでなく、2008年(平成20年)6月に発生した岩手・宮城内陸地震の被害も受けずにどっしりと立っています。
栗原市栗駒沼倉にある山で、平泉で自害した源義経の胴体が葬られた地と伝えられています。
山頂には義経の胴塚とされる五輪塔と石碑が建っています。
判官森を更に上に登ると、義経を守るように弁慶森があります。
栗駒小学校の体育館裏に登山道の入り口があり、徒歩10分程度で義経の胴塚まで辿り着きます。
所在地 宮城県栗原市栗駒沼倉
東北自動車道 若柳金成I.C.から自動車で約20分
寒湯番所跡は旧築館町の西北約27.4km、温湯温泉の東100mの所にあります。仙台藩領から一迫川渓谷に沿って進み、秋田県境の鞍部を通り、秋田藩雄勝郡に通ずる「花山越え」の要衝に置かれた仙台藩の関所です。
御境目番所となったのは、伊達政宗公が岩出山入りした後の慶長年代からで、200余年間、往来する人と荷物の検問を行っていました。安政の初期に改築した、四脚門と役宅が現存しています。
門は伊達家の紋を配し、釘を使わずくさび止めした総ケヤキ造りの建物です。役宅に入って天井を見上げると、吹き抜けの太くたくましい梁のスクラムに、目を奪われます。柱の上のかまど神、釜男の面が往時の様々な出来事を語っているかのようです。1963年(昭和38)年9月に史跡として国の指定を受けました。
開館時間 午前9時から午後4時30分
開館日 4月1日から11月末まで
観覧料 ※団体は20名以上
一般210円(団体170円)
小中学生・高校生110円(団体90円)
交通アクセス
東北自動車道築館インターチェンジから自動車で約40分
JRくりこま高原駅から自動車で約50分
電話番号 0228-56-2040(花山温泉温湯山荘)
2015年9月に日本ジオパークに認定された栗駒山麓ジオパークを地域内外へ情報発信し、体験や学習の場を提供する活動拠点施設です。栗駒山から伊豆沼・内沼までの床面航空写真や、壁面と床面の巨大スクリーンによる荒砥沢地すべりなどの紹介映像を大迫力で体感できます。
住所 989-5372 宮城県栗原市栗駒松倉東貴船5番地 電話番号 0228-24-8836
URL http://www.kuriharasity.jp/geppark
1985年に、渡り鳥のための国際的に重要な湿地としてのラムサール条約の登録湿地となった伊豆沼・内沼の豊かな自然を求め、県内外から訪れる数多くの人々のために、沼の自然や人文・社会環境などを紹介し、また、自然観察や教育的機能などを備えた施設として、1990年に建設されました。1991年1月6日に開館し、2015年7月25日にリニューアルオープンしました。
1階では、床面に16mの伊豆沼・内沼周辺の航空写真を配置したほか、展示棚や伊豆沼・内沼をかたどったテーブルには、いろいろな仕掛けを設置しており、小さなお子さんも楽しく伊豆沼・内沼の自然について学ぶことができます。
2階では、ライブカメラやフィールドスコープで鳥や植物を観察したり、展示物には様々なグラフィックや標本などを設置しており、伊豆沼・内沼の歴史や人と自然とのかかわり、財団の最新の研究成果などを分かりやすく学ぶことができます。
住所 989-5504 宮城県栗原市若柳字上畑岡敷味17-2 電話番号 0228-33-2216
URL http://izunuma.org/1_1.html
宮城県栗原市栗駒岩ヶ崎地区で開催される夏祭りで、毎年7月下旬の土曜日・日曜日、宵祭と本祭の2日間行われる。江戸時代の五穀豊穣を祈願する「新田の大早苗振り」が現在に伝わるもので、300年の伝統があります。
湯浜温泉
↓ 70分 2.2km ↑ 60分
湯浜コース分岐
↓ 80分 3.0km ↑ 80分
千年クロベ
↓ 80分 3.9km ↑ 90分
大地森分岐
↓ 50分 3.2km ↑ 60分
世界谷地駐車場
湯浜温泉三浦旅館駐車場
(自動車)
東北自動車道築館インターチェンジから国道398号線経由で約60分、東北自動車道若柳金成インターチェンジから約50分。
(新幹線)
東北新幹線JR仙台駅からJRくりこま高原駅まで、JRくりこま高原駅から国道457号線・398号線を経由しレンタカー・タクシーで約75分。
利用可能な公共交通機関なし
世界谷地駐車場
(自動車)
東北自動車道築館インターチェンジから約70分、東北自動車道若柳金成インターチェンジから約50分。
(新幹線)
東北新幹線JR仙台駅からJRくりこま高原駅まで約25分、JRくりこま高原駅からレンタカー・タクシーで約60分。
利用可能な公共交通機関なし
くりこま高原温泉郷・栗駒山観光協会.栗駒古道トレッキングMAP(パンフレット)
柴崎徹「『栗駒山紀行』とその解題」山岳(第70年)、1970、p.242-257
菅原次男「栗駒古道」栗駒山自然博物研究所
熊谷新右衛門「秋田日記」無明舎出版、1984
上遠野秀宣「栗駒山紀行」1862
「南東北名山ガイド」河北新報出版センター、2019
《担当者》
日本山岳会 宮城支部
加藤知宏
《協力》
菅原次男氏(新湯温泉くりこま荘オーナー、郷土史家)