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91 近江坂
近江古道は今津町酒波の酒波寺(さなみでら)から始まります。
健脚ならば酒波寺から能登郷跡をへて能登野まで1日で歩き通すことは可能。
近江坂古道は奥深い山域に位置しているため、ここを歩く登山者は少ない。
山の自然そのものの姿が保たれているので、獣や猛禽類の野鳥も多く生息している。それらに充分注意して歩いていただきたい。
尚、大御影山からP784の間はブナ原生林で、緩い傾斜と広い尾根で構成されているので、非常時のビバークには困らない。
【難度】
酒波寺⇔ビラテスト今津=軽登山者向け
ビラテスト今津⇔大御影山=中級者向け
酒波寺 → 大御影山 → 能登郷跡 → 能登野=上級者・健脚向け
近江坂古道は、滋賀県今津町にある酒波(さなみ)から福井県若狭町能登野まで続く約22km強、所要時間12時間程の交易路である。
標高949.5mの大御影山が最高点で、県境を跨ぐ長い道程の大半にブナ林が続く原生林の尾根道である。
かつて人馬が往来した道で、U字形の掘割の跡が今も各所に残っている。
古くから大日岳から三十三間山に至る山域は近江の酒波寺の寺領で、隣接する日置神社に残る古文書によると、観応2年(1351年)に酒波寺の入会地に若狭国倉見の人々が立ち入りを認められたお礼に、近江坂を越えて日置神社に大般若経を送ったと記載されている。
毎年4月におこなわれる川上祭には、山手米がお供えとして近江坂を越えて川上庄に運ばれていたという。
近江坂は人馬の往来が絶えることはなく、両国の人々が荷役を運び往来した道である。
この歴史ある古道の整備のために結成された「今津山の会」が2007年から高島市の委託を受け、今津地域まちづくり事業の一環として近江坂のルートの復元を進めた。
倒れた木々を取り除き、木地師が住んでいた能登郷の天増川には手作りの橋を架けた。
大日尾根から能登郷分岐にかけては、手入れのいき届いた美しい原生林が続く。
能登郷に下るルートは若桜町からの参加も得て行われ、馬に荷役を背負わせ人々が通った道が確定され、古道が蘇った。
近江坂古道の一部は高島トレイルと重なり、中央分水嶺でもある。
歴史は古く、奈良時代に「行基(ぎょうき)」によって開創されたと伝わる。
隣接する日置神社に残る古文書によると、観応2年(1351年)に若狭国倉見荘の人々が、酒波寺のある川上壮への立ち入りを認められたお礼に、唐から伝わった大般若経600巻を「酒波岩剣大菩薩」日置神社に送ったと記されている。このとき経典が運ばれた道が近江坂であり、そこには倉見荘の人々が峠を越えて経典を運んだと書かれている。
酒波寺の創建時は興福寺の末で56坊があった。元亀3年に津田信澄により焼失し領地を没収された。真言宗智山派。
『若狭国志』に「里民云い伝う。創建以後一千年余に及ぶ」等々と記してあり、同祀の天神さんが若狭地方では有名。闇見という変わった名前の由来は、昔、近江・越前・若狭の三国にかけてそびえたつ山があり、山の中腹にある池に大蛇が住み着き、住民を苦しめていたという。第十代垂仁天皇の御代に素戔嗚尊と奇稲田姫の化身の二老人が現れ、大蛇を退治しその尾から出てきた宝剣をほうり投げて、落ちた所に神社を建てた。それが滋賀県今津の「日置神社」という。
真二つになった大蛇の体の一つが、若狭のこの地にも落ちたので神社を建て、落ちた衝撃で世の中が真闇になったので「闇見神社」と名付けたという。ここで近江坂の起終点「闇見神社」と「日置神社」の関連性が伝えられている。
小川を挟んで酒波寺と向かい合う。南北朝時代の観応2年(1351年)、若狭三方、能登倉見より山手として大般若経が寄進された。
酒波寺の寺領だった。三十三間山の名称は、京都の三十三間堂の棟木を納めたところから来ているという。古くは「倉見岳」、また天満神社の後山であることから「天神山」とも呼ばれていた。山頂の南側の大草原からは三方五湖や若狭湾、琵琶湖を望む大パノラマが広がっている。
【コースタイムは、前半と後半に分けて表示した】
《前半》 酒波寺からビラテスト今津間
酒波寺 →(2時間30分)赤坂山 →(1時間)ビラテスト今津
《後半》 ビラテスト今津から能登野間
ビラテスト今津 →(15分)平池 →(1時間50分)抜土林道
→(25分)P852近江坂分 →(50分)P950大御影山 →(1時間)P840三重岳分岐 →
→(50分)p784能登越分岐 →(45分)能登郷→(15分)林道から能登越の取り付き→(10分)
能登越 →(1時間)能登野側からの林道出合 →(1時間)林道ゲート能登野着
合計=11時間20分 総距離=約22km強
【参考までに:P784から大日岳を経由の能登野まで】
P784 →(20分)大日岳 →(10分)無線中継跡 →(20分)林道 →(20分)能登越
→(1時間)能登野側からの林道出合 →(1時間)林道ゲート能登野着
合計=3時間10分
JR湖西線今津駅 →バスで総合運動公園線「酒波」下車、徒歩15分
能登野(徒歩)→ JR小浜線十村駅
『大般若経が運ばれた古道・近江坂』「広報たかしま」平成29年12月号(No.215)
木村至宏編著「近江の峠」サンライズ出版
《担当者》
日本山岳会京都滋賀支部
村上 正
岡田茂久